ネズミで狙う世界最大の淡水サケマス名は?【世界怪魚図鑑02】

アジアが誇る、蒼き草原の美しき怪魚。ヘビ、鳥、ネズミなど水辺に近付くものはなんでも喰ってしまう…大地の清流に君臨する赤い暴君、タイメンだ。(執筆:望月俊典)

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タイメン用のルアーはドブネズミの毛皮?

2010年の初秋だった。語り部がウランバートルに着いた日、時間があったので、宿の近くにあるデパートに行くと、漁具とハンティング道具を扱う店があった。そこには、タイメン狙いのルアーが売っていたのだが…日本人のルアー感からは大きくかけ離れたものだった。ドブネズミの毛皮にフックが付いたような代物で(というか、まさにそれだと思う)、アクションやキャストなどは全く考慮されていなそうだ。おそらく流れに乗せて水面に漂わせたり、真っ直ぐ水面を引いてきたりするのだと思う。結局、買わずに店を出たが、これがタイメンのメインベイトなのか…とワクワクしたものだ。

草原の大地を貫く未舗装の一本道を2日間かけて走り、目的地へ到着した。大地が割れめのように裂けていて、その底に清流が流れている。それがチョロート川だ。長旅の果てにある、巨大な怪魚が息を潜める川としてはいささか細く浅い。が、釣り師の胸を打つような美しさがあった。

荒野の中継地ではラクダやワシなど観光客向けの動物がお出迎えしてくれる。これは大きなイヌワシ
かつてモンゴル帝国の首都だったカラコルム(ハルホリン)の都城跡
血みどろのトラックの荷台には剥いだばかりと思しき獣の皮が。モンゴルは人と動物との関係が深い
ようやく着いたチョロート川。ここでしか見ることができない景色がモンゴルにはある
夜は川沿いの草原でキャンプしていた。テントの外ではオオカミの遠吠えや大型動物同士の争う音が聞こえる…
ドライバーさんがコンロを忘れたので…そこらにいくらでも落ちている石をカマドに、乾燥したウシのフンを燃料にした

実は、ドブネズミよりも日本のS字系ルアーの方が好きらしい

さて、そのタイメンだ。和名はアムールイトウというのだが、あまり一般的ではない。サケ科の淡水魚で、ヴォルガ河やアムール河のような大河やその支流などに生息する。北海道のイトウとは近縁であるが、タイメンはイトウと違って降海することはない。ロシアでは210cm、105kgの個体が記録とされているが、モンゴルでは140cmくらいまでなら知人の釣果やネットでも見たことがある。

チョロート川では、15~20分ほどかけて岩場を降り、川に沿って歩きながら釣りをした。巨大な岩などで歩くのが困難な場合はまた岩場を登って降りてを繰り返す。ルアーは大きなミノーやS字系ビッグベイトに実績がある。ネズミを喰っているというので、ビッグバドも使ってみたが、釣れたのは大きなレノックだったりもした。

この哀れな語り部はのべ3日間タイメン釣りをしたが、釣れたのは1匹だけ。落ち込みの流れがよれる、ちょっと深くなった場所にS字系ビッグベイトが差し掛かったときに、ゴンッ!とバットで殴られたような強いアタリが出た。97cm、タイメンとしては大物とはいえない個体だったが、それでも巨大魚釣りに慣れていなかった当時の自分にはまるで川に引きずり込まれるのではないか…と一瞬不安を感じるほど強い引きだった。

タイメンがヒットした場所。落ち込みと岩の岬が絡んで、複雑な流れができる
ヒットルアーはジョインテッドクロー178(ガンクラフト)。日本のイトウと似るが…形、模様、色など違うといえば全然違う
ネズミのつもりでビッグバドを水面引きすると…釣れたのはレノック(コクチマス)。サケ科の魚だが、ニゴイが釣れたような気分になる。食べるとまあまあ美味しい
これがチョロート川周辺の景色。右手に持っているのは晩飯のレノック
急にヤギ、ウシ、ウマの大群に囲まれるのもチョロート川の日常だった
草原ではイヌのエサもシンプル
広大なキャンプサイト。なにをするのも自由だ

施設等関連情報

※料金等は取材当時のものとなります。料金の変更等がなされている場合がございますので、詳細につきましては各施設等にお問い合わせください。

この記事を書いたライター

望月 俊典 千葉県九十九里町生まれ。雑誌『Rod and Reel』副編集長を経て、フリーランスの編集/ライターとなる。海外の秘境釣行も大好きで、『世界の怪魚釣りマガジン』の立ち上げ&制作を手掛けた。現在は、琵琶湖事務所で仕事や釣りにいそしむ。著作は『バスルアー図鑑』(つり人社)。ちなみに、学生時代に、ネッシー(といわれているであろう現象)を目撃&撮影したことがある。

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