堂々とした巨体と恐ろしい風貌…なのに、なぜか地味な理由とは?
ヨーロッパ全域、ロシア、中央アジア、東アジア、そして北米大陸…と、人類史上最大のモンゴル帝国をはるかに凌ぐ大帝国に君臨する怪魚がいる。パイクだ。その代表的な種であるノーザンパイクに主眼を置いて話していこう。
ウィキペディアによると、「大型の個体は150cmを超える」とあるが…個人的にはそんなに大きなノーザンパイクを写真でも見たことがない。ちなみに、IGFAの長さの世界記録は124cmとなっている。細長い身体の後ろにヒレが集中し、ワニやアヒルのようなとぼけた顔を持つ。大きく裂けた口には鋭く長い牙がズラリと並んでいて、アマゾンの猛魚にも負けない迫力がある。体色はオリーブグリーンのベースカラーに黄白色の斑点模様があり、燻し銀の美しさを感じる。しかしながら、怪魚としてはイマイチ人気というか存在感がないような…。なぜだろうか?
この哀れな語り部(←筆者のことです)が初めて海外で釣った魚は、他ならぬパイクである。1996年にベルギーのアントワープに留学中の友人を訪ね、運河で一緒に釣りをしたのだ。ヨーヅリのバイブレーションをハウスボートの際に通したらパクリと喰ってきた。その後も、ドイツ、フランス、スペイン、チェコ、モンゴル、アメリカ…と、計7ヶ国でパイクを釣った。しかも、ほとんどが街中を流れるセーヌ川とかライン川とか、日本でいう多摩川や淀川のような身近な川だった。そう、いわゆる先進諸国のどこにでもパイクはいるので、わざわざ冒険的な旅をして会いに行く特別な魚という位置付けではないのだ。中学校の同級生や親戚に芸能人がいてもそんなに美人だとは思わなかった…という感じだろうか?
ブラックバス釣りの感覚で、障害物の近くでプラグやワームを泳がせると、ヌラリと姿を現して、後ろから襲ってくる。クランクベイト、スピナーベイト、ジャークベイト、ビッグベイト、スイムベイト…そのあたりがよく釣れるが、トップへの反応はイマイチ。引きはあまり強くはないが、大型になるとさすがにウェイトの乗ったファイトを楽しませてくれる。
この魚がなぜあんなにも広大な生息域を持つのか…理由はよくわからない。ただ、ひとつ思い当たる節がある。その昔、語り部は学生時代にパイクを飼育していたのだが…ヤツらは喰える餌のサイズが尋常でなく大きいのだ。感覚的にだが、稚魚のうちは自分の体重の80%、あるいはそれ以上のサイズの餌でも頑張って飲み込んでしまう。あのパックマンのような貪欲さ、他に飼育した魚では見たことがない。たまにしか餌を獲れなくても、異次元の胃袋で競争を生き抜くことができるのかもしれない。
個人的には、ヨーロッパの旅先で観光に飽きたとき、友人との再会や出会いのとき、あるいはひとりになりたいときに遊び相手をしてくれた、思い出深い怪魚である。
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