頭突きで人を狩る? 世界最大級の古代魚の名は?【世界怪魚図鑑16】

いよいよ、怪魚界の王様のご登場。鱗のある魚のなかでは最も大きくなる種で、古くから世界最大の淡水魚(実際は諸説ある)といわれてきた、3mを超えるアマゾンの巨大フィッシュイーター、ピラルクだ。

その他

地球を代表するフレッシュウォータージャイアント、ピラルク

アマゾン河最大の支流であるネグロ川、そのまた支流の残留湖(乾季で減水し、川からほぼ切り離された湖)で、この哀れな語り部(←筆者のことです)は巨大なピラルクと思しき魚を見たことがある。岸近くの水面下に浮かび上がり、プハーっと呼吸して、沈んでいった。2mはゆうにある個体で、血を流すような赤いウロコが鮮烈な印象に残っている。

ピラルク。最大で体長3m、体重200kgを超える。1億年以上ほとんど姿が変わらない、生ける化石といわれる。丸太のような体型で、頭は横扁平だが、尾ビレの方へ向かうにつれて縦扁平になる。ウロコは大きく、身体の後ろの方は赤く染まる。おろし金のような無数の突起のついた舌を持つ。空気呼吸するので、酸欠状態の残留湖で生きていけるのも大きな特徴である。

捕食方法はバキュームタイプで、口内を真空にした状態から一気に口とエラ蓋を開けて獲物を吸い込んでしまう。そのパワーは凄まじく、水中の捕食音がボートまで響いてくるほどだ。

アマゾンのレストランで食べたピラルクのステーキ。臭みは一切なく、鶏肉をジューシーにした食感で、実に美味しかった

世界最強の釣り堀で、ピラルクとの死闘

さて、語り部は一応、ピラルクを釣ったことがある。

タイのナコーンパトム県にあるアマゾンBKKという釣り堀にはピラルクをはじめ、アリゲーターガー、ピララーラ、メコンオオナマズ…など、世界の巨大魚たちが放流されている。そんなモンスター釣り堀に2度行ったことがある。

1度目は、ピラルクをヒットさせるも道糸のPE4号が切られ、バラしてしまった。

2度目は2019年。小林孝延さんらと一緒に行ったときだった。

アマゾンBKKでは、巨大魚たちのエサとして生きたテラピアを与えているのだが、運よく生きながらえたテラピアたちは、池の端っこの草などに身を寄せ合って猛魚たちから隠れているのがわかった。釣りをしながら観察していると、大きなピラルクが隠れているテラピアを探すように、時折池のコーナーやショアラインに沿って泳いでいるのが見てとれた。

なるほど…と思った語り部。スタッガーワイド7インチという、テラピアに見えないこともない大きな扁平ワームをオフセットフック(バーブレス)にセットし、池のコーナーを狙える場所で気長に待つことにした。

…しばらくすると、沖から巨大な影が岸へ向かって移動してきたではないか。

今だ! というタイミングでワームを池のコーナーの陸へと遠投し、ピラルクの接近に合わせてポチャンと落水させた。そのまま水面に引き波を立てるように岸沿いを泳がせていると…。

「ドボーンッ!!」

水面に大きな穴が空いた。…と思った瞬間、ロッドがバットまで一気に絞り込まれ、身体ごと水中に引きずり込まれそうになった。小型ベイトリールのドラグを効かせながら、一旦ピラルクを沖までゆっくりと逃走させ、その状態で力くらべをする。岸際でファイトして障害物にラインを擦られるよりも、そのほうが安全だと考えたからだ。

腐ってもピラルクである。人間サイズの魚体が繰り出すパワーは尋常ではない。寄せたと思ったらまた走られ…を何度となく繰り返し、少しずつ疲れるのを待つしかないのだ。

しばらくすると…あるときからこちらのパワーがやや上回り、コントロールできるようになったと感じた。それでも油断は禁物。爆発的な動きには常に警戒しつつ…最後は釣り堀スタッフの構える巨大ネットに収まってくれた。今度こそ、勝った!

そこ知れぬ釣り堀、アマゾンBKK。意外にゲーム性が高く、いろいろな釣りをやり込んだ人でも楽しめると思う
やっとこさ釣り上げたピラルク!養殖モノとはいえ、この迫力、この美しさ。しかし、この直後に事件が起こる
1度目に訪れたとき、ガイドのジャクリットが釣った1匹
担架式のネットに寝かせ、写真撮影前にファイトで疲れたピラルクを蘇生させている
ジャクリットのヒットルアーはアンモナイトシャッド5.5インチ(ジャッカル)。フックが完全に伸ばされている

ピラルクに勝ったぞ!…と思った瞬間、痛恨の一撃を喰らう

さあ、勝利の記念撮影である。それは、横たわるピラルクの頭に頬擦りするかのように、この哀れな語り部が顔を近づけた瞬間だった。

「ガキーンッ!!!!」

金属バットで思い切り頭をブン殴られたような、殺人的な衝撃と音が、語り部の頭蓋骨に鳴り響いた。あ、ヤバい…と思って立ち上がろうとしたのだが、足元がフラついて、一瞬意識を失った…気がした。

それを見ていた釣り堀スタッフによると、一瞬ではなく、数秒間フラついていたそうだ。まるで、マイク・タイソンの初めての世界タイトルマッチ、強烈な左フックを受けた直後のトレバー・バービックのようだったという(そうは言ってなかったが…「お前、こんなふうになってたぞ」と、釣り堀スタッフのフラつく仕草があの闘いを思い出させた)。

ピラルクの強烈な頭突きで脳震盪を起こしたのだ。それから数日間は完全に頭の中がおかしかった。思考に集中できず、理由もなくボーっとしたり、突然陰鬱な気分になったりする…。帰国後、脳外科医の友人に相談すると…「スマホを見るのはやめて、暗い部屋でボーっとしているように」と。それでもおかしいので、病院に連絡すると、「すぐに来てください」とのこと。やはり脳震盪で、安静を要する、という診断だった。


ところで、ピラルクのヘッドバットを喰らった瞬間に感じたことがある。

あれは、間違いなく故意だったと思う。とりあえず暴れた拍子にたまたま頭が当たった、という感じではなかった。狙いすましたタイミングで語り部の頭に頭突きを決めたに違いない…そんな確信のようなものがあった。

あとで調べてみると、他にもピラルクに頭突きされて失神する動画、肋骨を折られた知人の話、水族館のガラス(に映る自分に?)に頭突きをして失神し窒息して死んだ話…など、偶然ではないと思わざるを得ないエピソードが、出てくること出てくること。やはり…。ピラルクの頭突きというのは1億年の歴史で身につけた彼らの必殺技に違いない…そう確信に至った。

病院でMRI検査を受けながら、魚との闘いに初めて完全に負けた気がした。

頭突きを喰らって、額が腫れ上がっているのがわかるだろうか…
帰国後、病院の検査を受けることに…。脳震盪の診断で、1週間以上の安静を言い渡された
少し腫れが引くと、目の周りが青くなってきた

施設等関連情報

※料金等は取材当時のものとなります。料金の変更等がなされている場合がございますので、詳細につきましては各施設等にお問い合わせください。

この記事を書いたライター

望月 俊典 千葉県九十九里町生まれ。雑誌『Rod and Reel』副編集長を経て、フリーランスの編集/ライターとなる。海外の秘境釣行も大好きで、『世界の怪魚釣りマガジン』の立ち上げ&制作を手掛けた。現在は、琵琶湖事務所で仕事や釣りにいそしむ。著作は『バスルアー図鑑』(つり人社)。ちなみに、学生時代に、ネッシー(といわれているであろう現象)を目撃&撮影したことがある。

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