なぜピーコックバスが世界最高のゲームフィッシュなのか?
世界最高の淡水ゲームフィッシュとはなんだろうか? 人によって諸説あるだろう。それなりに多くの魚種を釣ってきたこの哀れな語り部(←筆者のことです)が思う候補はというと…いずれも南米の人気魚、ドラドとピーコックバス…このあたりではないだろうか。巨大化した魚体の美しさとファイトの激しさでいうなら前者になるが、釣り場のロケーション、キャスティングの面白さ、ルアーの多彩さ、そしてド派手なバイトなど…総合的なゲーム性では後者に軍配を上げざるを得ない。そう、私的・世界最高のゲームフィッシュはピーコックバスである。
しかしながら、厳密には全部で15種とされるピーコックバスのなかでも最大種であるトクナレ・アスーがピカイチの存在である。今回はこの種に絞って語っていこう。
語り部が初めてこの魚を釣ったのは…2014年、3ヶ月に渡る南米旅行の道中だった。ブラジルの釣り雑誌の編集長だったアレックス・コイケが取材を兼ねたツアーに僕も潜り込ませてくれたのだ。メンバーはブラジルの釣りのプロ、釣り具メーカーの社長、大牧場主、スーパー経営者…という感じのセレブ揃い。基本的にブラジルの釣り、特にアマゾンのフィッシングロッジやホテルボートでの釣りはお金持ちの遊びなのだ。
一行は、アマゾン河流域最大の都市・マナウスから国内線でバルセロスという前線の村へと飛んだ。
究極の大名釣り、ネグロ川のホテルボート
バルセロスの小さな空港に着いて、少しクルマで走ると桟橋があり、そこがホテルボートの発着港になっていた。
ホテルボートとは、その名の通り、ちょっとしたホテルのようなボートである。さほど大きくはないのだが、エアコンの効いた寝室、温水の出るシャワー、専属コックが腕をふるう食堂、満天の星空が見えるデッキ…など設備が整っている。その母船がいくつものアルミボートを引き連れてネグロ川をぐんぐんと遡上していくのだ。そして、有望なポイントに着くと、空母から戦闘機が飛び立つかの如く、男たちはホテルボートからアルミボートに飛び乗り、ジャングルの奥へと出撃していくのである。
この生活を5~7日間続ける。
冠水したジャングルを小さなアルミボートで進む。ときにはナタで木を切り倒し、全員ボートから降りて浅瀬を渡ったりしながら進む。その先には乾季の減水で生まれた残存湖があり、取り残された魚たちがたくさんいる…こともある。
冠水したジャングルのエッジに向けて投げる代表的なルアーは…巨大なスウィッシャー。「ズバーンッ!!!!」という炸裂音とスプラッシュが、ジャングルの奥に隠れた巨大なトクナレ・アスーを呼ぶのだという(ちなみに彼らがルアーを察知して食いついてくる射程距離はおよそ20mに及ぶのだとか)。
ドッバーンッ!!!!
水面が爆発したかのような音と飛沫。これが、巨大なピーコックバスの捕食だ。そして、巨大スウィッシャーに食ってくるピーコックバスはなぜかバカにデカい。
…ハズなのだが、アレックスが釣ったこの旅1匹目は控えめなサイズだった。
アレックス「More and bigger!(もっとたくさん、もっとデカいのを!)」
トロフィーサイズがなんと哀れな語り部のジョイクロを飲み込んだ!
バルセロスの港を出てから3日目。語り部は巨大スウイッシャーの釣りのコツがイマイチ掴めないまま、大した釣果も得られずにいた。尤も、このタイミングはまだ水の引きが悪く、メンバーのまだ誰も大物を手にしていなかった。
巨大スウィッシャーは上下に大きくジャークしながら、それに合わせてリズミカルにリーリングしないといい音が出ない。このアクションは日本のルアー釣りにはないもので、しかも体力的にもキツく…日本人は苦戦を強いられるのだ。
そこで、アレックスが巨大スウィッシャーを投げる後ろから、その音におびき寄せられた大物を高性能な日本製ビッグベイトで横取りする作戦を思いついた。
流れがよれる小さなワンドの入り口。冠水した木の際へジョインテッドクローを投げて、5秒ほど沈め…S字軌道を描くように巻くと…。
ゴン、ゴーンッ!!
17.8cmの大きなルアーが、さらに巨大な口に吸い込まれた衝撃。それがロッドを介して手元まで伝わってきた。すかさず、巻きながら合わせると…ロッドが一気にバットまで絞り込まれた。ギュ…ギュギュギュ…と、締め込んでいたはずのダイワ製ベイトリールのドラグが大した抵抗もできずに引き出されていく。近くには立木もあるので好きに走らせるわけにもいかない。親指でスプールを押さえながら怪魚の走りに抵抗しつつ、隙を見てリールを巻いた。しばらくして水面に現れたトクナレ・アスーの巨大な顔は今も忘れられない。
アレックス「グランジ!(でかいぞ)トロフィーサイズだ!」
77cm、17.5ポンド(約7.93kg)。世界記録には程遠いし、なんのトロフィーなのかイマイチよくわからなかったが、このツアー12名が釣ったなかではこれが最大だった。金はないが、運はまあまあ持っているのである。
今回はホテルボートツアーの魅力と語り部の釣果自慢で終わったような気もするが…詳しいピーコックバスの紹介は次回に持ち越すことにしよう。
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