タイの小規模河川にて、スキッピング地獄が始まった
タイ西部のとある大型ダム湖での釣りを終え、見知らぬ土地でレンタカーを走られるI氏とこの哀れな語り部(←筆者のことです)。次の目的地は、とある川。といっても、チャオプラヤー川やメークロン川のような大河ではなく、街中を流れる運河のような川である。
ここでの釣りは、1日だけ贅沢をしよう、ということで現地のフィッシングガイドを日本から予約していたのだった。日本にいるときにLINEでやりとりし、事前に決めていた待ち合わせ場所のセブンイレブンへと朝6時に向かった。
セブンイレブンの駐車場につくと、アルミボートを積んだピックアップトラックが2台止まっている。間違いない、彼らが我々のガイドだ。
街中にあるマリーナから川へとボートを下ろし、すぐに釣りが始まった。語り部のガイドはチャンさんという陽気で腕のいいおじさんである。
この川は潮の干満の影響を受けるタイダルリバーで、時間帯によって水位が大きく変動するらしい。そして、チャンさんが投げろというポイントは…ズバリ、オーバーハングした木。満水時は狭い隙間にワームをスキッピングで入れろ、という。減水時にはその木の根本やシェードをこれまたスキッピングで入れろ、という。
無限に続くオーバーハング。これは…スキッピング地獄になりそうだ。
ただ奥へ入れるのではなく、美しく入れるべし!
チャンさん一味はスキッピングの信者かというくらい、この釣り方にこだわりを持っている。使うワームはスキッピング専用という気合いの入れようだ。
ただオーバーハングに入ればいいと言うものではない。サイドハンドやバックハンドキャストでかなり手前のほうから着水させ、チャチャチャチャチャ…と甘い水音で優しく奥まで入っていかなけばならない。バス釣りの感覚で、とりあえず奥まで入れていってもチャンさんは「グッド!」と言ってくれないのだ。チャチャチャチャ…と優しく奥まで入れたら、やや速めに巻いて、ジャバジャバと音を立てながら引いてくる。
チャン「ただ入れるのではなく、スキッピングの音と波紋でチャドーにルアーを気づかせるんだ」
言葉はわからないが、そう言っていたに違いない。基本的に、同じスポットに5回、多いときは10回以上入れる。しつこく誘わないと食ってこないこともあるからだ。
午前中はこのスキッピングに手こずった。チャチャチャチャチャ…と優しくスキップできないと、水面でバウンドして上の木に引っかかったり、バックラッシュしたりして釣りに支障が出るのだ。これがなかなか難しいのだが…昼に近づくにつれ、「グッド!」の回数が増えてきた。
I氏「望月さん、どうですか? 僕は5回くらいバイトがありましたよ」
と、別のボートに乗っているI氏がそう言いながらホテイアオイのような浮遊植物をワームで撃つと…突然水面が割れた! 慎重にファイトして…ガイドの構えるネットへ。チャンさんは「10kg!」とデカい声で叫んでいる。
I氏「よっしゃ、釣れました。7ポンド(約3.2kg)ですね」
結局、午前中はI氏は6バイト、語り部に2バイトノーフィッシュ。
川からそのまま上がって食事ができる洒落たレストランで昼食をとることになった。前日までのダム湖にくらべるとかなりの暑さで、今年一番汗をかいたと思う。
苦節何年? ようやく10ポンドチャドーを仕留めた!
さて、午後である。タイ式スキッピングを自分のものにしつつある、この哀れな語り部。川は減水しつつあり、オーバーハング下の隙間が広がり、多少入れやすくなってきた。それでも奥へ直撃させるのではなく、チャチャチャチャチャ…と手前から奥まで優しい水音でスキッピングをさせねばならない。何度でもいうが、このスキッピング自体がチャドーへの誘いのアクションになっているからだ。
チャン「トシさん、この木に10回投げてください」
ガイドのチャンさんがそういうからにはかなり有望なスポットに違いない(大体、10回投げろと言われると20回投げさせられる)。スキッピングが奥まで綺麗に決まり、ジャバジャバと水面を引いてくると…横から黒い影が矢のように飛んできた。しかし、ワームが見えなくなったので反射的に合わせてしまい…すっぽ抜けてしまう。チャンさんがいうには何秒か待ってからアワセるくらいがいいらしい。結局、このスポットで3発バイトがあったが、一度もロッドに重さが乗ることはなかった…。
夕方に近づくにつれ、川はどんどん減水していく。軽く1m以上水が減り、朝には問題なく行けた上流部へはボートを降りて引っ張って行かなければならない状態だ。ここらはオーバーハングなどのカバーは減り、ボトムの石が露わになっている。
チャン「トシさん、ここはバズベイトです。出ればデカいよ!」
そう言われた気がする。石が露出したバンクへとヒュージバズベイト(デプス)をキャストし、バス釣りのときよりも速いスピードで、カタカタジョバジョバと水面を荒らしまくる。すると…ドボーン!という待望のバイト。しかし、びっくりアワセをしてしまい、またも乗せることができず…。夕日に背中を押されながら、諦めずに投げ続けていると…再び水面が大爆発!
ヒットしたチャドーはこちらに一気に走ってきた。あまりに速いためテンションが抜け…バラしたかと思ったが…バレてない! ラインが横に走っている。さらにボートの真下へと突っ込もうとするチャドー。ロッドが折れそうなくらいボートに沿って曲げられている。耐えるしかない。
望月「チャンさん、デカいよ! ネットを…」
最後は強引にチャンさんの構えるネットへと魔物を封じるかのように叩き込んだ。
望月「やった! やったよ、チャンさん!」
チャン「やっと釣ったな! ビッグサイズだ!」
おそらくだが、この日は語り部の長い釣り人生で、最も多くキャストした日だと思う。3000投以上したのではないだろうか? スキッピングで入れたら、すぐに回収、その繰り返し。暑くて体への負担も大きい。かつてないくらいハードでアスレチックな釣りだった。肩も背中もバキバキになってしまった。
40代のおじさんが高校の部活の合宿のようにフルスイングで釣りをしまくった3日間。実をいうと、翌日もまた未知のダムを開拓することになるのだが…それはまたの機会に語りたいと思う。
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