「裏切り者」と呼ばれる、アマゾンの古代牙魚の名は?【世界怪魚図鑑15】

アマゾンのルアーターゲットのなかでも3本の指に入るであろう、古代の猛魚がいる。メタリックグリーンに光る褐色の肌。ライギョのようにも見えるが、巨大なハゼのようにも見える…しかし、顔がイカツすぎる…。その名はタライロン!(執筆:望月俊典)

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ペンシルベイトの派手な首振りが許せなかった悪魔の魚

タライロン。ポルトガル語で”裏切り者”を意味する。なぜだろう? …獲物を待ち伏せする狩りのスタイルと、その悪魔的な見た目に由来するのではないだろうか。

太く長いボディ、強靭な尾ビレ、茶褐色の地色なのにメタリックグリーンに輝く二面性。一見、外からは見えないが、剥き出しにすると現れる恐ろしい牙。体長は1m以上に成長し、老成した個体の迫力はまさに古代魚。シーラカンスのような雰囲気さえ漂う。

この哀れな語り部(←筆者の事です)が初めてタライロンを釣ったのは2014年、故・グランデ小川さんに案内してもらったアマゾン河の支流、シングー川だった。シングー川はアマゾン河水系では稀な、岩に囲まれた川である。アルタミラという街からボートで3時間半ほど遡上したところにベースキャンプを張り、そこを起点として出撃していった。

タライロンは入江のような場所で狙う。ポイントに着くとボートから降りて、岸釣りスタイルとなる。緩い流れの当たる岩の周りを、大型で派手なノック音のするペンシルベイトで、カコーン、カコーン、と大きく首を振らせていると…ズヴァアアアーンッ!!…と水面が爆発した。しかし、フッキングしていない。そのままルアーを左右に大きくスライドさせていると、再び爆発!! タライロンだ! まるでグレコローマン・レスラーのように全身でルアーを投げ飛ばそうとする。力任せの荒々しいファイトは、原始的な闘争本能そのもの。ルアーへの反応も極めて素直で…裏切り者どころか、コイツはただの天然野郎だぜ。

6人乗りの中型ボートでアルタミラからシングー川を遡上する一行。小塚拓矢さん、藤田健吾さん(健ちゃん)も同行。健ちゃんとは初対面だった
途中、サンドバーのような場所にベースキャンプを張った。タープ付きの大きなテントがキッチンとリビングルームを兼ねる
珍しい色のジャクンダを釣る、グランデ小川さん。楽しい語りをありがとうございました。三途の川の猛魚の話をいつか聞かせてください
ドクタースポック(KV)で釣れた、語り部のタライロン。まだ大物とはいえないサイズだが、裏切り者の片鱗が現れている…?
唇に覆われた部分を剥くと…アイスピックのような鋭い牙が露わになる

恐るべきおもてなし、アマゾンのネイチャーボーイ

ところで、そのツアーのボートパイロットにネトという男がいた。彼もまたとんでもない天然野郎だった。語り部が釣りに苦戦していると、彼はエサ釣り用の大きなフックに太いPEラインを結び、その辺に落ちている木の枝に巻きつけて謎の仕掛けを作っていた。ネトはその仕掛けを語り部のタックルに接続し、水中メガネを掛けて濁った川に潜っていった…と思ったら…しばらくすると遠くの水面に顔を出し、「リールを巻け!」と叫んでいる。いわれるままに巻くと…グングンと強烈な引き! さっき釣った個体よりも大きなタライロンだ。驚くべきことに、ネトは岩陰に潜んでいたであろうタライロンを見つけ、さらにその口へフックを引っ掛けたのだ…。

釣り人的には正直あまりうれしくはない…しかしながら、アマゾン本流のように深いおもてなしの心ではないか。ここまでしてくれるガイドなんて世界広しといえど聞いたことがない。語り部もそれに応えようと、全力でファイトし、そのタライロンを獲った。そして、120%の笑顔でネトと握手した。

即席の仕掛けが完成し、ご満悦なネト。これをどうするかというと…
仕掛けを語り部のタックルに結ぶと、濁った岩場に潜水していった
すると…驚いたことに、大きなタライロンの下顎に水中でフックを引っ掛け、それを語り部に釣らせてくれたのだ。釣りとしては完全にチートだが、これをやろうと思う大胆さに驚いた。もしかしたら、我々でもやればできるのかもしれないが…なかなかこの発想はない
だいぶ後日、ネグロ川で仲良くなったプロアングラーのジュニーニョとサンパウロ州の池で何日か釣りをした。このときはカヤックでいろいろ狙ったのだが…うれしかったのがこのタライーラ。タライロンそっくりだが、そこまで大きくはならない。下アゴの裏から見分ける方法があるが…それはまたにしよう
ジュニーニョのタライーラ。十分迫力がある
悪魔のような、タライーラの顔
ブラジルのクランクベイトにもヒットした。ジュラシックな面構えが痺れる

施設等関連情報

※料金等は取材当時のものとなります。料金の変更等がなされている場合がございますので、詳細につきましては各施設等にお問い合わせください。

この記事を書いたライター

望月 俊典 千葉県九十九里町生まれ。雑誌『Rod and Reel』副編集長を経て、フリーランスの編集/ライターとなる。海外の秘境釣行も大好きで、『世界の怪魚釣りマガジン』の立ち上げ&制作を手掛けた。現在は、琵琶湖事務所で仕事や釣りにいそしむ。著作は『バスルアー図鑑』(つり人社)。ちなみに、学生時代に、ネッシー(といわれているであろう現象)を目撃&撮影したことがある。

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