ペンシルベイトの派手な首振りが許せなかった悪魔の魚
タライロン。ポルトガル語で”裏切り者”を意味する。なぜだろう? …獲物を待ち伏せする狩りのスタイルと、その悪魔的な見た目に由来するのではないだろうか。
太く長いボディ、強靭な尾ビレ、茶褐色の地色なのにメタリックグリーンに輝く二面性。一見、外からは見えないが、剥き出しにすると現れる恐ろしい牙。体長は1m以上に成長し、老成した個体の迫力はまさに古代魚。シーラカンスのような雰囲気さえ漂う。
この哀れな語り部(←筆者の事です)が初めてタライロンを釣ったのは2014年、故・グランデ小川さんに案内してもらったアマゾン河の支流、シングー川だった。シングー川はアマゾン河水系では稀な、岩に囲まれた川である。アルタミラという街からボートで3時間半ほど遡上したところにベースキャンプを張り、そこを起点として出撃していった。
タライロンは入江のような場所で狙う。ポイントに着くとボートから降りて、岸釣りスタイルとなる。緩い流れの当たる岩の周りを、大型で派手なノック音のするペンシルベイトで、カコーン、カコーン、と大きく首を振らせていると…ズヴァアアアーンッ!!…と水面が爆発した。しかし、フッキングしていない。そのままルアーを左右に大きくスライドさせていると、再び爆発!! タライロンだ! まるでグレコローマン・レスラーのように全身でルアーを投げ飛ばそうとする。力任せの荒々しいファイトは、原始的な闘争本能そのもの。ルアーへの反応も極めて素直で…裏切り者どころか、コイツはただの天然野郎だぜ。
恐るべきおもてなし、アマゾンのネイチャーボーイ
ところで、そのツアーのボートパイロットにネトという男がいた。彼もまたとんでもない天然野郎だった。語り部が釣りに苦戦していると、彼はエサ釣り用の大きなフックに太いPEラインを結び、その辺に落ちている木の枝に巻きつけて謎の仕掛けを作っていた。ネトはその仕掛けを語り部のタックルに接続し、水中メガネを掛けて濁った川に潜っていった…と思ったら…しばらくすると遠くの水面に顔を出し、「リールを巻け!」と叫んでいる。いわれるままに巻くと…グングンと強烈な引き! さっき釣った個体よりも大きなタライロンだ。驚くべきことに、ネトは岩陰に潜んでいたであろうタライロンを見つけ、さらにその口へフックを引っ掛けたのだ…。
釣り人的には正直あまりうれしくはない…しかしながら、アマゾン本流のように深いおもてなしの心ではないか。ここまでしてくれるガイドなんて世界広しといえど聞いたことがない。語り部もそれに応えようと、全力でファイトし、そのタライロンを獲った。そして、120%の笑顔でネトと握手した。
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