2025年、芦ノ湖バスは100周年
時の実業家・赤星鉄馬氏がオオクチバス(ブラックバス)をアメリカから移殖したのは1925年。“食用”とレジャー産業促進のために、私財を投げ打っての事業だった。東京大学に淡水魚実験所があり、他の水域と絶縁されていることから試験放流の場として選ばれたのが神奈川県・芦ノ湖。つまり日本におけるバスフィッシングの歴史は間もなく100周年の節目を迎えることになる。
3年ぶりの開催となる「第6回 芦ノ湖ショア・バスフィッシング大会」前日の釣行となった今回、タイミング良く放流の模様を見学させて頂いた。今回、放流されたオオクチバスは平均1,000g(全長40cm)ほどのグッドサイズばかりで、中には1,500gはありそうな良型もチラホラ。さらに特筆なのはそのコンディションの良さで、フットボールのようなマッチョな体型の個体ばかり。地元『漁協』のこうした放流事業が芦ノ湖の豊かな魚相を支えている。更にはその餌となるワカサギの放流も大きく影響しているのだが、そのハナシは長くなってしまいそうなのでまたの機会に。
およそ1mの減水、いきなり手詰まり!
放流船の見学をしていたら、突然の雷と豪雨で一時車に避難。やがて雨は上がり、霧が晴れるのを待って出船した。夏の芦ノ湖と言えば、湖岸の浅場を樹木が覆って形成される日陰(オーバーハング)に集まる魚を狙う釣りが中心なのだが、今年は1m近い減水で沿岸の木陰はことごとく陸地になっている。また、大物が回遊してくる浅場もすっかり干上がって草原になっていた。日陰を探して、定番の桟橋を巡るが、この減水で相当叩かれているのか例年のようには魚影が認められない。そうこうしている内に遊覧船が動き始め、観光客の皆さんが湖岸を行き交う時間帯となり、桟橋に向けてルアーを投げる釣りを自粛。ボートを借りた『山木商店』の山木一人プロから出掛けに教えて貰った“沖の水面”に狙いを絞った釣りを試みるが、どうにも誘い出しに繋がらない。今回ご一緒したYさんが浅場へ投げた独特な泳ぎ方をするロングビルミノーにこの日初めてとなるバイトがあったが、ボート際で惜しくもバレてしまった。落胆しながらも「魚は居る!」と励まし合ったりしていた。そんな折も折、雨後の晴天が風を呼び、ボートを定位するのも困難な状況に。こんな時は無理せず休憩しようと、風でボートを岸に押し当ててコンビニおにぎりを食べ始めたその時、この日の釣りの大きなヒントに気付くこととなる──。
ボートの周囲は“1kgフィッシュ”に包囲されていた!?
湖を見ながらおにぎりを食べていると、ヨシノボリ(ハゼ科の魚、通称“ゴリ”)が意外と沢山居ることに気付かされた。「こんなに居たのか」と湖底を覗き込んだ際、誤っておにぎりを食べこぼしてしまい、その米粒にゴリやエビがわらわらと集まるのを、微笑ましく眺めていた──すると、この風に吹き寄せられたのか、それとも眼の焦点が合ったのか、そこそこのサイズのバスが2、3匹、イヤ、5匹くらい…いやいや10匹以上が浅場の湖底に沈んでじっとしている。これらの魚は先ほど放流されたバスのようで、ボートの上からは背中が水色っぽく見える。さらに10分毎位の周期で、ブレイク(湖底が急に深くなる肩)の沖からふらっと浅場へ来ては、やがて沖のブレイクへと帰って行く二回りほど大きな灰色っぽく見えるバスも居ることが分かった。
ここで、Yさんはお得意のスピナーベイト(3/8oz)、私はラバージグ&ポーク(3/8oz)を投げたところ殆ど同時のバイトでダブルヒット!取り込まれたのは体長こそ40cm程度だがウエイトは1,300gもあるグッドコンディション。この後も饗宴のようなバイトラッシュを楽しんだが、Yさんが倒木の下から誘い出したバスが枝の中へ逃げ込んだ際、スピナーベイトが何かに引っ掛かり、魚はフックオフしてしまった。「この調子なら魚はまだ釣れる」と回収器で倒木に巻いたルアーを回収したところ、以前から根掛かりしていたラインに絡まっていたことが判明。水中に放置された糸を手繰ってみると、その先端には大ぶりなプラスチックワームが結ばれていた。「鼻白む」という言葉があるのだが、その意味を思い知らされる出来事だった。華やいだ空気は霧散し、一瞬にして興は醒めた。大人げなくはしゃいでいた私たちは、えも言われぬ気持ちで溜息を落とし、竿を置いてしまった。
芦ノ湖は「プラスチックワーム使用禁止」だが…
今回ご一緒したYさん。いつもは千葉県・房総半島のリザーバー(ダム湖)でバス釣りをしていて、芦ノ湖の釣りはこの日が初めて。芦ノ湖が他の釣り場と大きく異なるのは「プラスチックワーム使用禁止」が規則として掲げられていること。日本では一般的に「ワーム」と呼ばれているソフトルアーは、安価な上に餌に近い比重、食感、風味を持たせることが出来、比較的容易に魚を手にすることが出来る(と思われている)。実は私もソフトルアーを使った釣りが大の得意で、芦ノ湖や河口湖以外では手放せない選択肢の一つとなっている。ところが、見方を変えれば「ソフトルアーに頼らずとも釣りが成立する湖」という側面も芦ノ湖にはあり、何度か通うと「プラスチックワーム使用禁止」というルールを足かせ(ハンデ)と感じなくなるのも事実。一方、活き餌を用いた“ムーチング”は禁止されていないので、“喰わせの釣り”をしたい、より高い確率で魚を手にしたいという釣り人にはまずこの餌釣りをお薦めしたい。実のところ大物の実績も高く、スリリングな釣りを楽しめる筈だ。ルアーアングラーとしてはソフトルアーが「使用禁止」と認識するより「使わなくてイイ釣り場」であると思えば、持ち込むタックルも減ってゲーム性や面白みがより濃くなる気がするのだが、どうだろうか。
ウン十年前のバス釣り少年の皆さん、夏休みは釣りに行こう!
日本に於けるバスフィッシングの礎を築いた赤星鉄馬氏はその手記に「釣りどく」という言葉を残している。節度やマナーを忘れた釣り人の所業を顕すこの表現。それを諫めるような独自ルールを掲げた芦ノ湖は、彼のイズムを語ること無く継承しているように見受けられる。
7月23日(土)に開催された「第6回 芦ノ湖ショア・バスフィッシング大会」での優勝ウエイトは2,700g(全長52cm)。翌24日(日)の「NBCチャプター神奈川・第2戦・テイルウォークCUP」でも2000g以上の個体が何匹もウェイインされた今シーズンの芦ノ湖。そのポテンシャルは今年も期待大と言えるだろう。間もなくオオクチバス移殖元年から100年を迎える神奈川県・芦ノ湖。ウン十年前に初めてバスを手にして震えていたかつてのバス釣り少年の皆さんにお薦めしたい、夏休みのご提案です。
施設等情報
〒250-0521 神奈川県足柄下郡箱根町箱根184-1
Tel. 0460-83-7361
遊漁料(店売り):大人1,500円/身体障害者750円/中学生以下無料
※軟質プラスチックワームの使用禁止
※夜釣りの禁止
※人の居る桟橋や釣り禁止エリアでの釣りは厳禁
※オオクチバス、コクチバス及びブルーギルを生きたまま移動、放流することは法律で禁止されています。違反者は処罰の対象とされます。
(芦ノ湖 遊漁規則詳細) 芦ノ湖 漁業協同組合ホームページ
施設等関連情報
〒250-0521 神奈川県足柄下郡箱根町箱根61
Tel. 0460-83-7331
エンジンボート:定員3名 1日9,000円
※料金等は取材当時のものとなります。料金の変更等がなされている場合がございますので、詳細につきましては各施設等にお問い合わせください。