キバが巨大過ぎて口に入りきらないサーベルタイガー的怪魚の名は?【世界怪魚図鑑09】

怪魚のアイコンといえば他ならぬコイツ。下顎から長く伸びた2対の大牙は、まるで太古に絶滅したサーベルタイガーのよう。見た目の派手さとわかりやすさは怪魚界でもトップクラス…なのだが、釣り人の評価は意外にも…?(執筆:望月俊典)

コラム

ザッツ怪魚!…なビジュアルとは裏腹に残念な実力の持ち主

1990年代の半ばに出版された『柏木重孝のアマゾン大釣行』(学習研究社)という、近年の怪魚シーンにも少なからず影響を与えた本がある。その表紙を飾っていたのがこの魚、ペーシュ・カショーロだ(犬の魚という意味で、正しいポルトガル語の発音はペイシ・カショーホ。スペイン語圏ではパヤーラ)。わかりやすい恐ろしさがあるので、怪魚マニアではない一般層へ訴求したいときには、ピラニアと並んでうってつけの魚なのである。しかし、書き出しの文章で私もついうっかり「コイツ」と表現してしまったように、釣り人からのリスペクトは…残念ながら薄いように感じる。なぜだろうか?

この魚を初めて釣ったのは2013年、ブラジルのシングー川だった。故・グランデ小川さんのガイドで遡上&キャンプしながら釣りをするアドベンチャーツアー。シングー川はアマゾンでは珍しい岩場の多い川で、時々滝のような落ち込みがある。その下の淵や流れがあたる岬の周辺がカショーロの根城なのだ。ボートから上陸して釣りを始めるやいなや…ルアーをキャストするごとにガツガツと何度もアタってくる…のである。フッキングはよくない。しかし、アタリ自体が多いので簡単に数を釣ることができた。

2度目に釣ったのは、同じくブラジルのテレスピレス川。ここで、漁師のバドと巨大ナマズを狙って魚の切り身をエサに釣りをしたときのこと。仕掛けにまた「ガツッ…ガツッ」というあの金属的なアタリがきた。正体はまたもカショーロ。しかもこのときは釣れると型もよく、数もたくさん釣れたように思う。

…しかし、なぜだろう、あまりうれしくない、あの感じは。

釣れるときはポンポンと釣れるので…なんというか、安っぽいのだ。まるでサバを釣っているような感じである。
そして、ファイト。アマゾンの魚にしては力が弱い。派手なジャンプもしないし、わりとすぐに諦めてしまう。ボートに上げて写真を撮っていると、エラのあたりからオレンジ色がかった透明な液体をプシャーっと放出したかと思うと、すぐに弱り、大物はリリースしようとしても絶命してしまう(と思う)。魚体に触れていた手にはねっとりと白濁したゼリー状のなにかが大量にこびりついている。そして、次にキャストしようとしたら、ルアーに穴が開けられて浸水していたりする。

食してもみたが、身はやや水っぽく、独特の燻製臭がして、個人的には美味しいとは思わなかった。

そんな理由から、釣り人目線では評価が難しい魚である。しかし、ブログやSNSなんかではめっぽう映えるので…昔からトロフィーワイフのような扱いで釣り自慢のネタにされているし、今後もそれは変わらないだろう。めちゃめちゃイケメンなのに勉強も運動もまるでダメ…みたいな残念さがあり、そこに哀愁を感じない…こともない。

シングー川で釣ったカショーロ。ルアーはフローティングマグナム(ラパラ)。魚体のサイズの割に、大きなルアーにも恐れずに喰らいついてくる
バドが釣った102cmの大物。エサ釣りの方が釣れるサイズが明らかにデカかったが、なかでもコイツは特大。青みがかったシルバーが美しい
ファイトしているバド。オオナマズ狙いのタックルなので余裕がある。流れの当たる岩底が大物ポイントだ
カショーロの口。異常に発達した2本の犬歯が下アゴからそびえ立つ。それが上顎の穴へと、刀が鞘に収まるようにすっぽりと入る。ちなみに、サーベルタイガーのあの牙も、口を閉じたときは外へと露出していたのではなく鞘のような袋に収まっていたという説が今は有力らしい
大物の大アゴ。これだけ長い牙で噛み付くため、口は裂けるように大きく開く。この牙の一撃で獲物を串刺しにしてから丸飲みする…らしい

施設等関連情報

※料金等は取材当時のものとなります。料金の変更等がなされている場合がございますので、詳細につきましては各施設等にお問い合わせください。

この記事を書いたライター

望月 俊典 千葉県九十九里町生まれ。雑誌『Rod and Reel』副編集長を経て、フリーランスの編集/ライターとなる。海外の秘境釣行も大好きで、『世界の怪魚釣りマガジン』の立ち上げ&制作を手掛けた。現在は、琵琶湖事務所で仕事や釣りにいそしむ。著作は『バスルアー図鑑』(つり人社)。ちなみに、学生時代に、ネッシー(といわれているであろう現象)を目撃&撮影したことがある。

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