灼熱のアジアで《オバケ・チャドー》を追う!ダム湖突撃編【怪魚図鑑:タイ遠征】

コロナ禍も収束ムードになり、海外へ旅立つ人が目に見えて増えてきた2023年。自称・怪魚釣りブームの仕掛け人であるこの哀れな語り部(←筆者のことです)が、久しぶりに旅に出た(去年アメリカでバスは釣ったが…)。行き先は東南アジア人気ナンバーワン観光地でもある、タイランド。狙うは…まだ見ぬ巨大チャドーだ。

淡水

コロナ禍明けの怪魚釣行は王道(タイ)を進むことにする

バンコク近郊のスワンナプーム国際空港に着いて、ゲートを出ると、旅慣れた雰囲気の日本人紳士が立っていた。

I氏「おつかれさまです。エアアジアどうでした?」

物価高といわれる昨今であるが、庶民の味方、エアアジアの航空券は安い。オプションの預け荷物代金を入れても4万円以下である。だから語り部でも行けるのである。座席は狭いが…仮にフルサービスキャリアのビジネスクラスでも漫画喫茶の個室より広いということはない。つまり、万事気の持ちようである。

さて、某大手マスコミに勤務するI氏。語り部の釣り友達で、腕はなかなかのもの。しかしながら、コロナ禍が始まる前の2019年にボルネオ島に一緒に釣り旅に出て…見事なくらい撃沈したコンビである。ちなみにI氏の飛行機はLCC(ローコストキャリア)ではない。

I氏「望月さん、夏休みに東南アジアにいきませんか?」

と、春から誘われていた。I氏は仕事の都合で奥さんと離れて暮らしている身なのだが…この哀れな語り部との釣り旅に貴重な夏休みを捧げてしまってよいのだろうか?…といらぬ心配をしつつ、「いいですね、行きましょう!」と返事をした。

何度かZOOMで相談して、行き先はタイに決定。

理由は、7~9日ほどしか休みが取れないこと、(語り部に)あまり予算がないこと、前回のボルネオ島で釣れなかったトーマン(タイの名前はチャドー)にリベンジすること、タイ料理を食べたいこと…などだった。最初はタイ西部にある有名なカオレムダムを目指そうということになりかけたが、ふたりとも別々に行ったことがあるし、あんまりアドベンチャー感がないよね…ということで、ほとんど情報のないリザーバーを回ろうということになった。どうなることやら…。

4年ぶりのスワンナプーム国際空港。何回か来てはいるが、アウェイという感じがしない。©望月俊典
今回はレンタカーで旅をすることにした。これさえあれば、行きたいときに行きたい場所へ行ける…という最高の旅ツールである。タイは、簡単に取得できる国外免許があれば運転できる。©望月俊典

タイ2日目。早速、ボートマンを捕まえることに成功!

昼過ぎに空港を出て、とりあえず、バンコクで釣具店を探すことにした。日本では買うことができない対チャドー用ルアーを物色するためだ。そのあと屋台でお昼ご飯を食べたりしていたら…いつの間には夕方になり、バンコクのラッシュアワーに巻き込まれてしまった…。

タイ西部にある最初の目的地まで、まだ200km以上…。慣れないバンコクの渋滞に苦しみながら…結局、22時半ごろになってようやくダム湖近くにある宿に到着した。

翌朝、6時に起きて宿の近くにあるビジターセンターへ行ってみることにした。ボートを操船してくれる船頭さんを探すためだ。何人かに電話してもらって…現れたのは…ボートマンらしくないというか…どことなくオタク的な雰囲気のある、サムという男。優しい、誠実そうな目をしている。我々は値段の交渉をして、合意に至り…すぐに釣りができることになった。順調である。

船着場に着くと、我々に用意されていたのは、舳先(へさき)にお立ち台がある木製ボート。タイではよくあるタイプである。安定感はイマイチで、走り出すと引き波がボートの縁よりも高い…。が、少しくらい荒れてもよく走ってくれる。

沖へ出ると、このダム湖はかなり大きいことがわかった。そして、今は減水していて、カバーらしいカバーはすべて陸の上だった。

まず入江の奥の奥まで入って行き、ここで投げろ、という。枯れた流れ込みに、まずはI氏が大型ミノーを投げると…すぐに若いチャドーが釣れた。語り部も小さめのスイムベイトでアタリは得たものの、残っていたのは歯形だけだった。このダム湖…釣れるんじゃないの?

しかし、そう甘くはないのがアジアの釣り。日が高くなるにつれ、浅い場所から魚が消えた感じがした。さらにI氏は熱中症なのか、昼飯時に飲んだビールが効いたのか、急に体調不良になり、ダウン。語り部はその隙をついてガレ場でヒュージバズベイト(デプス)を巻いていると、ゴボーンッ!!と水面が割れた。なかなかデカそうだ…が乗らず。

夕方になるとI氏は復活。広いシャローフラットでペンシルベイトやバズベイトをふたりで引き倒したが、アタリがない。それどころか、ボートの後ろの方でふたりの日本人をからかうかのように度々ボイルが起きているではないか。

I氏「あれはチャドー?」

サム「いや、カスープだよ」

カスープとは、東南アジアに生息するコイ科のフィッシュイーターである。怪魚と呼ぶには地味すぎるが、ルアー対象魚としてはなかなかのゲーム性があり、語り部は好き。

I氏が沖側にシャロークランクをキャストすると…すぐに釣れたではないか。すかさず、語り部もクランクベイトにチェンジ。ボトムに到達し、コツコツとリップで底を叩きながら巻いていると…ゴツン!という激しいバイト。ドラグを出しながらギューン!と走ったので直感的にチャドーかと思ったが…水面に現れたのはシルバーの魚鱗。まあまあサイズだ。

望月「よっしゃ、カスープだ!」

すっかり外道だということを忘れた語り部、しかし、減水したシチュエーションの釣りとしてはむしろ面白味がある。明日はこっちをメインにしてもいいかもしれない。

我々の愛艇。直進性はよいが、釣りをしている際の安定感に欠ける。サムも「座って釣りをしてくれ」と最初は言っていた。慣れてくるとお立ち台で釣りもできた。©望月俊典
釣りを開始してすぐにI氏が釣ったチャドー。ヒットルアーはルドラ130F(O.S.P)。まだ若く、淡い色をしている。©望月俊典
語り部が釣ったプラーカスープ。バスフィッシングのような巻きの釣りにフィットする、好ターゲットだ。ヒットルアーはモデルA 7A(ボーマー)。どこでも頼りになるクランクベイトだ。©石川勝義
その後、エンジンのプロペラが1枚折れてしまい…救助を待つことになる。海外では日常的な光景。©望月俊典

タイ3日目。I氏がてんやわんやでランカーチャドーを仕留めた!

釣り2日目。変なホテルで目覚め、近所の食堂で朝食を取り(辛いチャーハンがうまかった)、7時に船着場でサムさんと合流した。ボートを出すと、昨日はそれほど遠くまで走らなかったが、この日は違った。40分ほど本湖を走り、遠くのワンドまで到達。ガソリン代を顧みない、サムさんの釣らせたい気持ちが伝わってくるではないか。

ちなみに、このダム湖は茨城県の北浦より大きく、滋賀県の琵琶湖南湖よりも小さい。タイのダムはさほど険しくない山間部に作られがちで、日本にくらべると巨大なダム湖が多いのだ。

着いたのは、岸には切り立った岩が山のように積み上がったワンド。岩場にプロペラルアー(イヴォークゼロなど)やバズベイトなどのトップウォータールアーをキャストし、水面を騒がしていく。が、しかし…ほとんどアタリがない。

日が高くなってきたこともあり、クランクベイトへシフト。カスープでも釣れればいいや、という消極的な動機…否、臨機応変な狙いもあるにはある。

ワンドのなかで岬状に伸びた岩場の先端、ここでついに…ロッドがバット深くまで遠慮なく絞り込まれた! しかし、語り部ではなくI氏のロッドだ。

I氏「デッカ!」

サム「ビッグビッグビッグ!」

一瞬見えた魚体は丸太のように太く…10kg…はないとしても、デカい!

I氏「ネットお願いします!」

と、やや強引にネットランディングの態勢に入り…ネットイン成功!…と思った刹那。

望月「ああ〜ッ!! そんな…」

まさか、ネットの柄が付け根からポッキリ折れてしまった…。しかし、魚はまだバレてはいない。サムが沈んでいくネット部分を拾い上げ、I氏のファイト再開。暴れるチャドーをいなしながらもう一度水面までリフトし…今度はネット部分だけでドジョウ掬い風にランディング成功!

I氏「オッケーオッケー! やったやった!!!」

望月「デカいよ!」

サム「ブラックチャドー!!」

これまで釣っていた若いチャドーとは違い、全身真っ黒で、えも言われぬ迫力がある。

I氏「14ポンド…ですね」

サム「ビューティホー!」

やられた…。「クランクが効きそうだな…」とは思っていたが、交換するのがめんどくさくてそのままトップを投げていたこの哀れな語り部。案の定、I氏のブリッツMAX DRにしてやられた。お見事です。

語り部も遅れてマグワートにチェンジ。なんと2投目でヒット!…したのだが、大きくはないチャドーだった。そのあとは語り部がカスープを釣っただけで、2日目の釣り、このダム湖の釣りが終わった。

まあ、いい。語り部にはまだ明日も明後日もあるのだ。まずは翌日、川ででっかいチャドーを狙うことになる。

I氏のキャッチした14ポンド(約6.35kg)のチャドー。ぱっと見は真っ黒だが、よく見ると深緑の地色が見える。丸太ん棒のように太く、ボディビルダーのような個体だった。©望月俊典
その直後にすかさずクランクベイトを結んでキャスト…したらすぐに釣れた。うれしいこの旅の初チャドーである。©石川勝義
その後は語り部がカスープを追加しただけで終わった。サムがいうにはもっと雨が降って満水になってからがいいらしい。©望月俊典

施設等関連情報

※料金等は取材当時のものとなります。料金の変更等がなされている場合がございますので、詳細につきましては各施設等にお問い合わせください。

この記事を書いたライター

望月 俊典 千葉県九十九里町生まれ。雑誌『Rod and Reel』副編集長を経て、フリーランスの編集/ライターとなる。海外の秘境釣行も大好きで、『世界の怪魚釣りマガジン』の立ち上げ&制作を手掛けた。現在は、琵琶湖事務所で仕事や釣りにいそしむ。著作は『バスルアー図鑑』(つり人社)。ちなみに、学生時代に、ネッシー(といわれているであろう現象)を目撃&撮影したことがある。

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