こうして、翌日も回収する決心をした私は、弟子のモッチーに電話をして助っ人を頼んだ。モッチーとは私のライター仲間であり、釣りに関しては私の弟子になる。釣りビジョンマガジンの読者なら「哀れな語り部」として知っているかもしれない。現在は滋賀県に住んでいるのだが、2016年当時は千葉県九十九里町の実家に住んでいたのだ。私「明日時間あるか?」モッチー「あります」私「実はダム湖にカメラを落としたから手伝ってほしい」モッチー「浅いなら潜りますよ」私「4mだから見えないよ」モッチー「4mならいけます」私「死ぬぞ」モッチー「ウエットスーツもあります」私「だから見えないって」モッチー「水中ライトつけていきます」こうしてモッチーは翌朝、住んでる九十九里町から駆けつけてくれた。しかも、ハマグリを取る道具など、地元の漁師に相談して、いろんな役立ちグッズを持ってきてくれた。ただ、漁師さんが貸してくれた道具はとても使いこなせず、いつしか、二人は昨日の私とほとんど変わらないような、オモリをつけたギャング針で、ボトムを探る作業を続けるようになった。モッチー「これ、潜っても無理でしたね。濁っていて見えません」私「そうだろ? だから潜るなって言ったんだよ」モッチー「このままだと、午後までかかりそうですね」私「そしたら、あきらめるか。もう湖流で流されたのかもしれない」その時だった。何かやたら重いものが私の仕掛けにかかった。それまで、かなり大きな木の枝とかも釣りあげたりしたが明らかに感触が違う。褐色に濁った水の中から、うっすらとオモリと針が見えてきた。その針に刺さっていたのは?私「ス・ト・ラ・ッ・プだああああああああああああ!」モッチー「マジですか!」少し離れていたモッチーが、エレキで近づいてきた。ものすごく重い。タックルを両手で支えるのがやっとだ。私は無理をせず、モッチーに取り込んでもらうことにした。私「モッチー! 無理だ、取ってくれ!」モッチー「はい分かりました」私「モッチー! 早く!」モッチー「分かってます」私「モッチー、さっさと取ってくれ」モッチー「ああ、いい感じです!」私「は? オメー、何スマホ見てんだよ」モッチー「だから、今写真を撮ってます……」私「写真じゃなくて、カメラを取り込んでくれって意味だよ!」モッチー「あ、そういう意味ですか」結局、自分で安全にカメラを回収。中にはたっぷんたっぷんに水が入っていて、どう見ても修理不能。しかし、SDカードは完全に生きていて、後ですべての写真データを吸い出せた!モッチーにはお礼として安いステーキをおごった。奴がいなければ、このサルベージはなしえなかっただろう。ありがとうモッチー。しかし、ドラマはこれで終わりではなかった。自宅に帰って、念のために保証書を確認してみた。すると、私は目を見張った!なんと「全損保証1年間」と書かれたビッグカメラのレシートが貼られていたのだ。こんな保証に入っていたなんて、すっかり忘れていた!しかも、これは全損した実物がないと効かない保証だった。つまり、もしあのサルベージ作戦を決行していなかったら、この保証は使えなかったはず。あれは英断だった。定休日にもかかわらず、例外としてボートを貸してくれた豊英釣り舟センターにも、心から感謝している。結局、私はわずかな自己負担金を支払っただけで、カメラのボディもレンズも新品となって戻ってきた。それ以来、カメラや周辺機器はビックカメラで買うことにしている(ホームページを見る限り、現在でも継続しているサービスのようだが要確認)。豊英ダムは、その後も好釣果が続き、現在も大人気の釣り場となっている。