一日中キスを狙って気持を詰め込みっぱなしというわけではない。点々と海をのぞいたり漁師町を歩いてまわり、昼には湯を沸かしてコーヒーを淹れ飯を食う。釣りにまつわる一つひとつに心を開いて遊ばせるのが楽しい。後から来た釣り人たちと言葉を交わす、その中の一人、寒チヌ狙いのフカセ釣り師がなんと女性だった。ルアーの女性は見るけれど、フカセ釣りでは珍しい。竿の扱いになかなかの手練れと見た。不惑の端を掴みかかった頃と思われ、背筋がシャンと立って撒き餌をパッと打つ姿は魅せたね。彼女と交わす会話も、他愛もないことながら楽しくてね。お陰で気短なジイちゃんもよくまあこの寒さの中、辛抱出来たようで、一人旅喜寿ジイのペーソスもじんわり希釈されたのだった。ということで金キスにも女性釣り師にも楽しくさせられた山陰の釣り旅であった。