さて。語り部がこの魚に接したのは6年前、2016年の秋だった。『世界の怪魚マガジン』の取材で怪魚ハンターの小塚拓矢さんとチェコを訪れ、世界的な怪魚ハンターであるヤコブ・ワグネルさんの案内で釣りをしたのだった。ヤコブに連れて行かれたのは中型の沼。10月だったがもう水は冷たく、そして濁っていた。ウェーダーを履いて立ち込んで釣りをしたのだが「ブレイクには近づくな」とヤコブはいう。ハリにかかったオオナマズに引きずり込まれるからだ。また、驚いたのが、水温が低い時期は餌よりもルアーがいいらしい。てっきり餌釣りだと思い込んでいたのだが、ヤコブにオオナマズルアー用のスピニングタックルを借りることになった。ヤコブ「今のように水温が低い時期のウェルズは、目の前の獲物を直接喰うこともあるが、多くの場合は尻尾で一度叩いてくる。だから、尻尾にフッキングしてもアクシデントではないよ」ルアーは大型ワームのジグヘッドリグ。それを遠投して、ボトムに着いたらリフト&フォールを交えたスイミングを繰り返す。すると、ヤコブがいうように大きな尾ビレで一撃を加えたような衝撃が手元に伝わり、その直後にズドンッ!と吸い込まれるようなアタリがくる。そこからファイト開始。引きは日本のナマズを巨人化させたようなそれで、ものすごい重さはあるものの、スピード感のある疾走やジャンプなど派手さはない。小学6年生が乗った自転車を釣っているくらいの感じである。寝技のような地味な格闘を15分もしていると、だんだんと巨体が寄ってきた。背中を出してゆらりゆらりと語り部の周りを泳ぐ様はまるでネス湖の怪物を釣り上げたかのようではないか。語り部は確か2匹釣り上げたが、どちらも2m超えで、大きい方は2.4mもあった。この巨大な口なら…確かに幼児なら飲み込まれるかもしれない。ヒトを襲ったという逸話も多いが、「水辺で洗っていた手に噛みついた」…という巨大魚あるある話が多いのではないかと思う。