我々はムベンガを餌釣りで狙った。ルアーでも可能性はあると思う。が、強く太い流れのなかへキャスティングを続けるにはエレクトリックモーターのないボートでは難しい。アンカーを下ろした状態で流れのヨレを狙うのであれば、餌の方が効率がいい。しかも、大物狙いならルアーより餌が有利なのは経験上明らか…と、考えたのだ。しかし、餌の調達の難しさや元気に生かしておく手間を考えると…決して安易な選択とはいえない。流れの中に定位させたボートから、ポイントと思しき場所へと餌のナマズを流し込んでいく。到達したら、そこで待つ。ひたすら待つ。すると、運がよければ1日に1回アタリがある。ムベンガが餌を食ったらリールのクラッチを切り、走らせる。…しかし、これがどこまでも止まらないのだ。数十mも走らせると、ラインの残量が心配になってきて…ここで仕方なく合わせをくれる。ただ、ロッドに重みが乗ることは非常に稀だ。餌をあのギロチンのような牙で噛んでいるだけなのか、合わせた途端、フっと軽くなってしまうのだ。1度目の遠征では12日間釣りができた。大物のアタリは何度もあったが…健ちゃんが若いムベンガをルアーで2匹釣ったのみで終わった。2度目の遠征は14日間釣りをした。ここで健ちゃんは見事、1mオーバーのムベンガを3匹釣ってみせた。しかし…この哀れな語り部、述べ26日間を釣りに費やしたが、1匹のムベンガを抱くこともできず、敗走を重ねた。究極の怪魚。語り部が身をもって体験し、そう認めざるを得ない理由がいくらかでも伝わっただろうか? いつかまた、あの陰鬱としたコンゴ河に戻らねばなるまい…。