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これは恐竜ではありません。コンゴの怪物の名は?【世界怪魚図鑑11】

2023年01月30日公開

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怪魚釣り界の表のボスがピラルクやピライーバだとしたら、裏のボスはコイツ。狂気を宿した虚ろな眼、子供が描いた怪獣のような口、これが怪魚の王であることに異論を挟む人はいないだろう。その名はムベンガ!(執筆:望月俊典)

究極の難易度を誇る怪魚界の裏ボス。出会うためにはいろいろと覚悟が必要だ

90年代の終わり、アルチュール・ランボー(フランスの詩人)の足跡を訪ねてフランスのシャルルヴィルに行ったこの哀れな語り部(←筆者のことです)。当然、街を流れる川で釣りもしていたのだが…マンズのクランクベイトでパイクを釣っていると地元の釣りキチ青年・グレゴリーが「いいルアーで釣っているね」と、声をかけてきた。翌日、彼と一緒に釣りをすることになり、家にも招待され、別れ際にフランスの釣り雑誌を何冊かもらった。それを宿屋で読んでいると…フランス人がバカンスで訪れたアフリカ釣行の記事があった。度肝を抜かれた。なんだこれは? 実在の魚なのか? マンサイズの巨体、作り物のような恐ろしい牙の並んだ顔…。それがムベンガ(当時はゴライアスタイガーフィッシュと呼んでいた)との出会いだった。まるで恐竜じゃないか…。

ムベンガはアフリカ大陸のコンゴ河水系に生息する巨大な肉食魚。体長1.5m、体重50kgに達するとされるが、もっと大きくなるような…気もする。コンゴ河はアマゾン河に次ぐ世界第2位の流域面積と水量を持つ、とんでもない大河である。その本流の、流れが強く当たるような場所にムベンガはいる…たぶん。

語り部は、2016年と2018年の2度、コンゴ共和国サイドのコンゴ河へ、藤田健吾さん(健ちゃん)と旅をした。コンゴ河にはフィッシングロッジなどないし、専門のガイドもいない。それ以前に釣り人もいなければ、釣具屋もない。まずは、現地人に「釣り」という概念を理解してもらうところから始まるのだ。目指す釣り場への公共交通機関もないので…当然、旅は過酷を極める。が、そのあたりはざっくり割愛しよう。

釣るべくして釣った健ちゃん。語り部はなんと…26日間連続のオデコ

我々はムベンガを餌釣りで狙った。ルアーでも可能性はあると思う。が、強く太い流れのなかへキャスティングを続けるにはエレクトリックモーターのないボートでは難しい。アンカーを下ろした状態で流れのヨレを狙うのであれば、餌の方が効率がいい。しかも、大物狙いならルアーより餌が有利なのは経験上明らか…と、考えたのだ。しかし、餌の調達の難しさや元気に生かしておく手間を考えると…決して安易な選択とはいえない。

流れの中に定位させたボートから、ポイントと思しき場所へと餌のナマズを流し込んでいく。到達したら、そこで待つ。ひたすら待つ。すると、運がよければ1日に1回アタリがある。ムベンガが餌を食ったらリールのクラッチを切り、走らせる。…しかし、これがどこまでも止まらないのだ。数十mも走らせると、ラインの残量が心配になってきて…ここで仕方なく合わせをくれる。ただ、ロッドに重みが乗ることは非常に稀だ。餌をあのギロチンのような牙で噛んでいるだけなのか、合わせた途端、フっと軽くなってしまうのだ。

1度目の遠征では12日間釣りができた。大物のアタリは何度もあったが…健ちゃんが若いムベンガをルアーで2匹釣ったのみで終わった。

2度目の遠征は14日間釣りをした。ここで健ちゃんは見事、1mオーバーのムベンガを3匹釣ってみせた。しかし…この哀れな語り部、述べ26日間を釣りに費やしたが、1匹のムベンガを抱くこともできず、敗走を重ねた。

究極の怪魚。語り部が身をもって体験し、そう認めざるを得ない理由がいくらかでも伝わっただろうか? いつかまた、あの陰鬱としたコンゴ河に戻らねばなるまい…。

 
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この記事を書いたライター

望月 俊典
千葉県九十九里町生まれ。雑誌『Rod and Reel』副編集長を経て、フリーランスの編集/ライターとなる。海外の秘境釣行も大好きで、『世界の怪魚釣りマガジン』の立ち上げ&制作を手掛けた。現在は、琵琶湖事務所で仕事や釣りにいそしむ。著作は『バスルアー図鑑』(つり人社)。ちなみに、学生時代に、ネッシー(といわれているであろう現象)を目撃&撮影したことがある。
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