釣りビジョン

【喜寿アングラーの毛ばり釣日誌】島根県と福岡県を股にかけ、盛期の渓相を楽しむ

2025年05月15日公開

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2025年は解禁当初から、辛い釣りを強いられていたが、四月になり陽光に川が輝きだすと渓は表情を変えた。瀬に生気がみなぎり、空気そのものがピリピリしだした。羽虫が脱皮を重ね、魚が動き始めたのだ。フライフィッシングを嗜む、喜寿アングラーにも春の暖かい血が通いだして、干からびていた身魂を潤し始める。いざ、期待感満載の輝く渓へ。

島根県高津川水系匹見川の巻

島根県は高津川水系の匹見川へ。まずは、下流のどのあたりまでヤマメがいるのか漁協に尋ねてみた。思う存分フライ竿を振ってみたかったからである。返事は「いるかいないか分からない所で釣るより魚影濃く放流された所の方がいいです」とのことだった。もっともなことで、それで教えられた匹見川の支流、つまり高津川の支流の支流に行ってみることにした。


だが、どこも川の規模が小さくて存分に竿を振ることができなかった。木立に覆われた杣道をしばらく上る。もう峠かと思われた頃にパッと開けて広い空が現れた。空に一番近い村で、陽春に瀬がピカピカ輝いていた。

午前の中頃、水温は10℃。薮をこいでたどり着いた堰の落ち込みの瀬に、グリフィスナットを抛る。グリ君を選んだのはただ上手く巻けただけで、何より見かけなのである。見かけが現実を制することが釣りの世界にもある。と思う。

ハッチもライズもない瀬の頭、尻と点で落としていく。763ロッドが使いやすい。何度目かにようやく一匹、アワセるとスッ飛んで来た。「こまかー」。だがこれで瀬がざわついてライズが連鎖しだした。すると、すぐに二匹目が来た。掛けると渾身の力で翻り、瀬を走って竿先にビリビリ伝わってくる。小ぶりのヤマメだったが、桜の花びらをまとっていっそう美しい。その後、いくらか掛けてしばし休憩。

車の中でたっぷり昼寝したあとの元気をなみなみと湛えた喜寿ジイ。教えられた川を巡る。魚は豊饒だが森に覆われた渓にフライを振る隙間はわずかで渓の上り下りに腰も重くなってきた。この日一日分の体力と気力を使い果たす前に、楽しいまま竿を仕舞うことにした。

魚は小さかったけれど、この日はキャッチ前リリースを含めずいぶんリリースできた。喜寿ジイ、釣り上げるまでは白熱するけれど、釣り上げてしまうとなんだか不意に気力を失ってしまい、それで逃がしてやる。魚との闘いはネットに横たわった魚の虚ろな目を見た時に終わっていたのだ。魚にそれ以上のことは求められないでいる。

福岡県豊前の巻

さて数日たって匹見の勢いそのままに、もちろん勢い余ってケガなどしないように、竿より命が大事と自身に言い聞かせて豊前の小さな渓に降りたった。喜寿アングラーのカーティスクリークである。

桜が散るとすぐに藤の花が咲いて、きっと魚たちはのびのび跳ねて甘いフライを待っているに違いない。
小さな川では解禁してからすぐに魚は枯渇しかかるのだが、誰も見向きもしなくなった頃にひっそり難を逃れていたのがフライを追い始めるのである。

渓には大小の羽虫が飛んでいた。だがライズは無い、でもライズまで待てない。黒くて大きい羽虫は、たぶんチラカゲロウ。どのフライにしようか、この迷いが期待に満ちた愉しみなのだが、この日は迷わない。メイフライのハッチが始まったのなら、いよいよCDCダンパターン、チラ君にもチラッと似ているではないか。

さて抛る。平たい瀬にはいないようだ。渕瀬を流してみるとパシャッとスプラッシュ。竿を跳ねる、掛けた、逸走遁走、ランディング。この日は旺盛だった。今までせいぜい豆君が2匹だったのに、こんな小さな渓のどこに潜んでいたのか、驚きである。段々に落ちる瀬のひとつ一つでフライを喰ってきた。フライ目掛けて一度に2匹が跳ねたこともあった。20cmを超える個体もいて、久しぶりにウホウホ夢中にさせられた。

藤に瀬が覆われるあたりまで上ったところで岩に腰を下ろす。瀬の躍動に煽られて開きっぱなしの自身を取り戻すのに藤の花がちょうどよかった。携帯でパチリ、お茶を飲んでゆっくり自身を閉じにかかる。

 

まとめに、喜寿アングラーも「やり切ったかな」と言おう

「釣りビジョン」でうら若き女子がフライをやっていた。『水と魚の声を聴く』という番組だった。手練れのオジさんがヌーッと登場してバンバン掛けるというのがフライ番組の定番だけれど、これはなんと偏差値70超の現役JDですぞ。なおさんだったか、まったく釣れずにいた後、健気に顔を上げて「やり切ったかな」とのたもうた。あらゆる判断と集中でキャストした結果の言葉であった。私もいつかほっと吐いてみたい言葉であった。それで今回のまとめに使わせてもらうことにした。

難攻の瀬で立ち止まらされると、改めて水を読みティペットを繋ぎ直し、また励む。あーもう投げこうも投げる、あちらで覚えこちらで教えられた良いと思えるあらゆる手錬で攻めつつ、一歩ずつ上っていく。ドンピシャで釣れると何かに感謝したくなって空を見上げると森の梢には藤の花が繚乱してつくづくいい季節になったと感じる。魚の気まぐれにしごき抜かれた後の汗と虚脱が清々しくジイちゃんを包んで、ああ今日は「やり切ったかな」とつぶやき、まだまだ長生きするぞと叫びたくなるのだった。

施設等情報

福岡県の京築地区管轄漁協
京二川漁協(今川、祓川)TEL:0930-25-6569
岩岳川漁協(岩岳川、佐井川)TEL:0979-88-2694

ヤマメ釣りの年券は福岡全県共通で3,000円だが、日券は京二川では500円、岩岳川では1,000円となって河川によって異なる。
放流地点など河川の情報は前もって漁協に問い合わせるのがよいだろう。京二川漁協はHPがあり、遊漁券(遊漁承認証)販売所や放流地点の情報も得ることが出来る。

施設等関連情報

京二川漁協が管轄する今川、祓川(ハライカワ)へは東九州自動車道今川インターから約20分。
祓川の伊良原ダム上流には手打ちそばなどの食事を楽しむことが出来る農家レストランがある。河川敷公園も整備されていてウォ―キングやサイクリングの拠点としても利用することが出来る。
岩岳川漁協が管轄する岩岳川、佐井川へは豊前インターから約20分。

岩岳川上流には温泉施設や食事処、キャンプ場もある。河川敷には河川プールがあり、ここもファミリーで楽しむことが出来る河川である。
     
※記事の掲載内容は公開日時点のものになります。時間経過に伴い、変更が生じる可能性があることをご了承ください。

この記事を書いたライター

喜寿の釣人
春と秋は渓のフライフィッシング、夏は鮎の友釣り、ほかは海でキスを狙った投げ釣りなど、季節ごとの釣りを楽しんでいる。釣り場は九州が中心で、中国地方、四国へも遠征。それぞれの釣場から元気に釣り情報を発信。
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