帰りの船で、先ほどの“手練れ”と一緒になった。「アジが一匹だけでした」とのこと。他人が釣れぬ時ほど、なぜこんなにも心が温まるのか。真冬のぽっかり陽気に揺られながら、心の中に溜まっていた毒がスーッと揮発していくのを感じた。釣果はちょっぴり。しかし、命が宿り始めた0号の竿が、日々の雑事にうんざり気味だった喜寿アングラーを、しばし極楽の海へ誘ってくれたのだ。先代の0号は十五年使った。この新しい一本も、それくらい使おう。卒寿までは元気でいると決めた。