時計の針は8時を回った。これまで、一瞬バルブキャップライトがチカチカっと点滅したことはあったが、ウナギのアタリではなさそうだった。ゴミが引っ掛かって外れたりしたのだろう。巻き上げてチェックしても、餌を食べた痕跡があまりなかった。「ここ、浅いよな? かなり遠浅だ」「ポイントまで届いていないのかな?」「今頃、浦安では本物のエレクトリカルパレードやってるぞ」2人ともより遠くへと飛ぶように、遠投を心掛けた。そして潮が下げに入り、川の流れが強まってきた。「おい、今光らなかったか?」「こっちも光ったような……」なんと、2本並べた俺の竿に、ついにアタリが出始めたのだ。でも、すぐに合わせたりはしない。完全に食い込んだと思えてから合わせを加えるのだ。それまでは、断続的なアタリを目と耳で楽しめばいい。毎回光るわけではないが、確かにこのバルブキャップライトが光ると心が躍る! 「いま、両方光ったぞ!」「エレクトリカルパレードだ!」「く~、たまらねえな! もっとパチパチ光れ!」 ちなみに2人とも55歳。妻も子供もいる。いろんな部分のキレが悪くなっている。自信を持ってオッサンを名乗れる年齢だ。しかし、心の中は少年のままなのだ(笑)。満を持して、俺は長いほうの竿を持つと、渾身の合わせを加えた! 鈴とバルブキャップライトが、後方にすっ飛んだ。そして、手ごたえがあった「これは間違いない! ウナギだ!」すると、ドーナッツのように丸くなったウナギが水面から飛び出てきた。「うお~、やった!」「鉄平、これで記事になるのか?」「記事にするさ!」ファイト中にウナギのアタマの部分が仕掛けに絡んだらしい。これをほどくのにかなり手間取ったが、なんとかバケツに入れることができた。もちろん記事にする。「エレクトリカルパレード、最高だったな」「これ、商品化したら売れるんじゃないか?」「よ~し、時間延長してウナギ釣るぞ」 しかし、餌のミミズが2匹しか残っていなかった。その後も2人とも何度かアタリが来た。きっと時合いだったのだろう。エレクトリックな気分を堪能して、結局30分ほどで納竿に。バドさんは残念ながら釣れなかったが、ドキドキ感はかなり味わったに違いない。現在、ウナギは、うちのベランダで泥を吐かせている最中だ。結構かわいい。家族からは、かわいそうだからと食べることに反対されている。