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この魚を切断したアルゼンチン国魚の名は?【世界怪魚図鑑04】

2022年12月19日公開

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FIFAワールドカップ2022カタール大会の決勝は、アルゼンチン対フランス。めまいがするような死闘の末、アルゼンチンが優勝を決めた。そのアルゼンチンといえば、怪魚界のメッシ? 河の虎の異名をとるドラドの故郷なのだ(執筆:望月俊典)

生まれながらのファイター、黄金のドラド

先日、ワールドカップの準決勝、アルゼンチン対クロアチアの試合中継を観ていた。画面にアルゼンチンの勝利に沸く観客席が映し出されると、そこで掲げられた国旗の真ん中に黄色い魚の絵が大きく描かれていた。ドラドだ。なるほど、タイムリーである。この連載ではもったいぶってまだ出さないつもりでいた名魚中の名魚。世界中のアングラーの憧れであるドラドを紹介することにしよう。

南米大陸の魚ではあるが、ドラド釣りで有名なのはアマゾン河水系ではない。古くは『オーパ!』で開高健が釣りをしたブラジルのパンタナル大湿原、21世紀なるとアルゼンチンのイベラ湿原がドラドの生息地として知られた。2006年にアルゼンチンのウルグアイ川(紛らわしい)にて、25.28kgというとんでもない魚がワールドレコードで更新されると、ウルグアイ川が大いに注目された。

この哀れな語り部(←筆者のことです)が初めて南米に行ったのはまだ会社勤めの雑誌編集者していた2011年。狙いはドラド。10日間という限られた休みだったので、最初はウルグアイ川のフィッシングロッジにしようか?とちょっとだけ考えたりもした。しかし、5日間の釣りと宿泊でなんと5,000ドル。航空券代なども考えると自分にはとても無理だった(今はもっと高額だと思う)。なので、パラグアイ側のパラナ河を別段アテもなく目指すことにした。

首都のアスンシオンからバスで南下し、パラナ河沿いにあるこじんまりとした町に着いた。そこで地元漁師と交渉し、4日間のドラド釣りをすることができた。太い流れのなかをフローティングマグナム(ラパラ)などのミノーを速巻きやジャークで狙う。すると突然「ガンッ!」という金属的なアタリが手元に伝わった!…かと思うと、その瞬間に遠くで黄金の魚体が空中を舞っている。ドラドだ。ルアーを喰った直後、必ず全身を出してジャンプするのが本種の特徴である。そのときのヘッドシェイクでフックを外されてしまうことが多い。引きの強さ、スピードは今まで釣ってきた淡水魚の水準を大きく超えていた。まるで黄金の矢のように流れのなかを疾走し、ジャンプを繰り返す。生まれながらのファイター。語り部がこれまでに釣ってきた猛魚のなかでもパウンド・フォー・パウンド的な存在である。黄金に輝く美しさ、この戦闘力よ。これがドラドだ。

憧れの怪魚であり、最高のゲームフィッシュでもある

ちなみに、語り部は合計4度、ドラドに挑戦している。2度目は2014年の南米3ヶ月の旅の前半、アルゼンチン側のパラナ河にて、幸運にもフィッシングロッジで釣りをすることができた。3度目は…その直後、パラグアイ側に渡り、初回と同じホテルに泊まって地元の漁師と5日間釣りをした。釣果的にはその時が一番よく釣れた。5日間で合計82バイト、16匹をキャッチすることができた(非常にバレやすい魚なのだ)。とはいえ、ルアーでは大物は釣れず。4回目はその旅の終盤、ブエノスアイレスのラプラタ河で1日だけガイド船に乗った…が、ドラドには出会えなかった。

怪魚というと一度大物を釣ったらもういいかな…というRPGにおけるラスボスタイプの魚もいる。反面、ドラドやピーコックバスは何度でも釣りに行きたいと思える。一回性の到達感だけでなく、ゲームフィッシュとしての面白さも併せ持っているのだ。ゆえに世界中の釣りキチを魅了するのだと思う。

 
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この記事を書いたライター

望月 俊典
千葉県九十九里町生まれ。雑誌『Rod and Reel』副編集長を経て、フリーランスの編集/ライターとなる。海外の秘境釣行も大好きで、『世界の怪魚釣りマガジン』の立ち上げ&制作を手掛けた。現在は、琵琶湖事務所で仕事や釣りにいそしむ。著作は『バスルアー図鑑』(つり人社)。ちなみに、学生時代に、ネッシー(といわれているであろう現象)を目撃&撮影したことがある。
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