小さな滝が渕へ落ち、明るい渓を作っている。落ち込みの際からEHCを流してみる。すると、底からフワリと浮いてサッと沈んだ。大きいぞ、フライを替える。クリンクハマー14番。赤いコンドルクイルで巻いた、半沈のお尻が妖しく誘うのだ。だが姿を現さない。もてあそぶだけもてあそんで後は知らんぷり。ならば、ニシヤマ君が言っていた「困った時のミッジ」を結んでみる。ティペットもスギサカ君のウルトラストロングティペット8Xを繋いだ。あっという間に打つ手が払底してしまうので後はブランド頼りである。フライが魚の頭上をたどるやいなや、パシャッ、フライが消えた。竿を跳ねるも「スコーン!」。魚以外の全部が空に揺れた。糸も身魂もプッツリ切れてしまい繋ぎようがない。疲れた身体を岩に置き、腰をさすり足を揉みして万事給水。長い影を引きずりながら川から離れようとした黄昏時、ふと巻いたばかりで使わないままにいたフライを思い出した。9回裏ツーアウト、代打、スティミュレーター選手の肩をポンと叩いて送り出すと、起死回生のホームランを放ったのであった。瀬の開きで黒い影が走ったと思ったらフライを跳ね飛ばすようにライズした。あわてて竿を立てる、糸が伸びる、フライが魚の口を拾う、魚の反抗が肘まで伝わる、ビンビン来る。ようやくすくった魚の白い縁取りの朱点が側線周りに散っている。ブラウンだ。20cmほどの魚体だった。小さいとはいえ、昔、養魚場から放された魚が、狭い限られた渓の分泌物だけで代々生を遂げていたのだ。渓から離れ、岸辺に腰を下ろす。この日、カスタムロッドが掛けた魚の顔を思い浮かべながら久しぶりの幸せな日を反芻する。ビルダー氏には「この記事を見てくれ」とだけ報告した。