2025年08月17日公開

ファールドリーダーなるモノを貰った。知人がひっそり作っているもので、だから使われ方もひっそりである。頑迷で食わず嫌いの喜寿アングラーだけれど団塊の世代らしく人と変わったことをしたいという困った根性もあるので、ひっそり、なんて言葉にちょっと惹かれて使ってみた。
島根県・高津川で試す
さてファールドリーダー君。当初は、馬毛やシルクを撚(よ)って作られていたというからフライフィッシングの誕生と重なる歴史があると察せられる。その後、ナイロンリーダー全盛の時代になっても、ひっそり使われ続けてきたとなると、これはもう信仰に近い形で受け継がれてきた伝説の糸といえる。
知人からは「釣り人の意図を糸が汲み取り、いとも簡単にフライを運ぶ」と、クドイ前置きとともに貰ったのだが、どうなるだろうか。
今回のファールド君、7.5ft。もっと短いのを使う人もいるようだが、まずは日頃のナイロンを使う要領で使ってみなはれと渡されていた。フライラインの先にファールド君、そしてティペット。普段のナイロンの場合と変わらない組み立てである。そのまた先にはピーパラ14番。夏の高津川でEHC(エルクヘアカディス)がウグイに気に入られて往生したので、パイロットには使わないでいる。
今回、高津川漁協の「渓流釣ガイドマップ」をもとに未踏の河川を踏破するつもりであったが、どれも深い夏草に覆われており、結局、馴染みの高津川水系紙祖川に行くことにした。
ファールドリーダーでゴギを掛ける
どこの岸辺も動物に混じってヒトの足跡、もう夏の渓に秘密はないのだ。
竿先からファールド君を引き出す、糸をツンツンしてみる、モスグリーンが渓の緑に溶け込んでいいじゃないか。柔らかいので投げるのに難儀するのかと思えば、意外にもうまいこと力がだんだん弱まりながらフライに伝わりフンワリ落ちる。初級者から脱したいとあがいている喜寿アングラーのアキュラ〝シー〟がBくらいになったような気にさせられた。ポリエステル製だといっていたからスレッドを使ったのかもしれない。撚り糸にフロータントをなじませていたので軽く漂い、ドラグの掛かりが遅い。
そんなファールド君に助けられながら森に覆われた瀬にたどり着いた時だった。岩に沿った樋状の流れにフライが落ちた途端、流れるフライと浮いて来た黒い影が一点で交差し、ガバッと水が膨らんだ。竿を跳ねる、掛かった。ゴギ(中国山地に棲むイワナの亜種)だった。さて、その後は先行の釣り人の後を追ってしまいヤマメを1匹掛けただけで終わった。
福川川で夏山女魚を掛ける
昼思う存分に休憩、あと半日は注油(アルコール)なしで頑張れそうだ。帰路、福川川(ふくがわがわ)に寄る。ここも多くの釣り人に愛されている川なので魚が生き残っているとしたら、したたかに鍛えられた野生を宿しているはずだ。「キャストは上手くいっている」と、自信めいたものがファールド君のおかげで芽生えてきていたが、何もないままフライだけが戻ってくる。
土のように重たい雲が森を覆う。冷たく澄み切った瀬は沈黙したきりである。もう本日使用分の身魂をほとんど使い果たしかけていた。空の気分に合わせフライを換えた。黒々としたEHCの背に黄色の目印を背負わせた目立つものにした。不思議なものでこれで釣り人の気分も変わる。遠目に投げたフライがゾウガメ岩の向こうに消えようとした瞬間、小さく飛沫が散ってラインが走った、来たっ、慌てて竿を跳ねる、掛けた。美しいヤマメだった。まだ指紋一つ付かない状態で残されていた瀬に向かって流れに干渉されないまま上手くフライが届いたのだった。
〝夏山女魚一里一匹〟というけれど、夏岩魚でもいいよとか、喜寿アングラーに代わって車が一里走ってたっていいよとか、誰かが言ってくれたらこの日はこれで充分に完成されたのだった。
ファールドリーダーのまとめ
なかなかのファールド君の働きぶりで楽しい1日だった。だが、当然、モノの持つ正が負を兆すということがある。ファールド君が素直すぎてリーダーがフライリーダーより先に落ちることがあった。メンディングをするとフライがすっ飛んでくることもあった。フロータントが不十分で、すぐに水を吸って重くなり瀬を叩いてしまった。その他、こまごまと難儀をしたが、すべて使い慣れないことからくることなのでブンブン使い込むしかないのだ。だがひょっとしたらその途中で、やっぱりナイロンだ、と回帰する釣り人もいるかもしれない。
この歳だから、初級者からの脱出に鈍重な持続力を強いられるより、やっぱりモノの力を借りてでもパッと上手くなりたいと思っている。だがモノはあくまでも形のうちにとどまっているわけで、結局、技とか注意力がなければモノが生きることはない、とモノの基本を改めてファールド君から教えられた。ナイロンリーダーに今でもてこずっている喜寿アングラーとしては、どちらがいいかと聞かれたら、「ウーン…」と考え込んだ後、やっぱり個性を愛するという誰もが知っている愛の定説を持ち出して答えることにしたい。
この記事を書いたライター
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